着物大学

腰紐1本の着付けについて

着物を着る時、着付けには何本かの紐を用います。
着付けに使う紐の素材なども多種多様であり、紐の代わりに使うゴムベルトなどの小物もあります。
着付けというのは、何本もの紐類を使うので、どうしても苦しいイメージがあるかと思います。

腰紐1本の着付けについて01

私がいま、皆様にお伝えしている着付けの方法として、「腰紐1本で着物が着られる」というものですが、着付けをした最終的な段階で、腰紐1本だけしか使用していない、という意味になります。
つまり、着付けをする過程では、どうしても押さえる為に紐類を使いますが、最終的には途中段階で使用した紐を抜いてしまう為、腰に締める紐1本ということになります

○着物の服飾史から考える 十二単

主に平安時代に貴族などの身分の高い女性が身につけていたとされるものに、十二単があります。詳しい説明は省略させていただきますが、何枚もの襲の袿を着用していました。

腰紐1本の着付けについて02

1枚の袿でさえ重さがあるのに、それを何枚も重ねておりながらも、着装後には1本も紐がないというのが、十二単の特徴でもあります
厳密には、1枚着装する際に1本紐を使い、次に1枚着装するときにまた1紐を使う
3枚目の着装の際に、1枚目に使用した紐を抜いて使う、ということを繰り返し、最終的には紐を抜いてしまうので、紐がない状態になる、というものです。
大変重い袿ではありますが、それを何枚も重ねて紐を抜いても着崩れないのです。
つまり、正しく紐を使い、着付けをすることで、紐を抜いても崩れないということを実現しているのが十二単であり、そのやり方と腰紐1本の着付けとの共通点を見出すことができます。

○着物の服飾史から考える 帯と着物

さてもっと時代は古く、縄文時代から服のようなものが登場しています。
それは、ウエストのところで紐のようなもので結んでとめています。
それ以降の時代の服飾史をみましても、服を紐で結ぶというスタイルのまま、その紐は少しづつ太くなっていきます。紐は服が脱げないように止めるものでした。
現代の帯と着物の原型に近いのは、江戸時代になってからですが、江戸時代になりますと、ただ着物がほどけないように止めていた帯が太くなり、また装飾性も加わり、前で結んだり、そして次第に帯結びも様々なバリエーションが出てきますが、帯の本来の役割というのは、「着物が解けないように止める紐」なのです
現代の着物では、やはり帯というのは装飾性の意味合いの方が強くなっているように思います。帯結びの方法もいろいろですが、前結びや、改良枕と呼ばれる先に帯のお太鼓などの形を整えてから、胴帯を結ぶ方法などでは、やはり胴に帯がしっかりと結べないため、これらの方法を用いる場合には、どうしても様々なお紐類が必要となってしまいますが、昔ながらの手結びと呼ばれる方法では、手先から帯を胴に巻き、帯の形を作り上げていくことができる為、その際にしっかりと胴に帯を巻くことができれば、帯本来の役割を果たすことが可能となります。その為に、帯をしっかりと胴に結んでさえいれば、着付けの途中経過で使用した紐を抜き取っても、着物が着崩れすることがありません
またしっかりと結ぶということは、きつく締めて苦しいとはイコールではありません

腰紐1本の着付けについて03

○腰紐1本にするための手順

最終的に腰紐1本の着付けになるには、手順をきちんと守ることが大切です。
その細かい部分は文章での説明にも限界があり、割愛いたしますが、私の着付け教室ではしっかりと説明をしている部分です。

まず、長襦袢を着る段階で、大体の方は胸紐と伊達締めを使うと思います。
私のお教えしている着付けでは、伊達締めだけ、あるいは腰紐だけのどちらか1本を使います。
ただし、その為には、紐の選び方も重要となります。

長襦袢の胸紐として1本、紐を使います。
次に着物を着ていきますが、裾合わせをして腰紐を腰で結びます。
そのあと、おはしょりを整え、衿合わせをして、胸紐として1本使います。
これも長襦袢同様、伊達締め、あるいは腰紐1本のどちらかを使いますが、この際に、長襦袢で使用した紐を身八つ口から抜き取り、着物の胸紐として使用します
着物を着上がった段階で、2本の紐を使用している状態です。
そして、「着物を止める紐」である帯を締め、完成させ、最後に胴帯から着物の胸紐に使った紐を抜き取ると、着物の腰紐に使用した腰紐1本だけの状態となります

腰紐1本の着付けについて04

○紐と伊達締めの選び方

腰紐というと、モスリン(ウール)のお紐が多いかと思いますが、
最近は綿モス、また正絹のお紐でも、楊柳のようなものから、平たく縫い合わせたものなどもあります。またポリエステル素材のもの、ゴムを使用したもの、シャーリングが入ったものなど、様々なお紐が販売されています。
伊達締めにつきましても、正絹のものは博多織のものがほとんどでしょうか。
伊達締めも金具が付いたものや、ポリエステルのものも多くなっています。
腰紐1本の着付けを行う場合には、しっかりと締まる紐選びが重要となります
腰紐(胸元に使うときは胸紐)としては、モスリンのものは万能です
またほんとうの腰に使う腰紐としては、正絹の楊柳のものは軽い力でしっかり結べます
伊達締めもしっかりと胸元を押さえられるものは、正絹の博多織のものでしょうか

腰紐1本の着付けについて05

○正しい紐使いはけっして苦しくないもの

紐で結ぶ、というのは苦しいというイメージがつきまといます。
特にしっかり結べるものを、とお伝えしますと、ギュウギュウ締め付けられるイメージを持たれてしまいがちですが、正しい位置で、正しい紐づかいで結んだ場合には、決して苦しいことはなく、むしろ心地よさを感じる人さえいるものです。
その紐づかいの細かいポイントなども、こちらで文章で説明するには限界がありますが、力強く結ぶわけではなく、ギュウギュウ力一杯結んでも緩むことさえあるものです。
その正しい紐の扱い方、紐を結ぶ位置さえ覚えてしまえば、金具がついたりシャーリングがついたりしていない、ただの紐の方が扱いやすいと感じますし、本当に万能です

○人間の骨格に沿って

正しい紐を結ぶ位置というのは、骨格に沿って決めていきます
骨がポイントとなります。
その位置さえ押さえれば、どんなに動いても崩れることはなく、むしろ腰などは安定して、動きやすくなります
歌舞伎俳優さんもそうですが、日本舞踊やその他、着物を着て芸能をされている方々は動いても着崩れませんよね。正しい位置で紐を結んで着付けさえすれば、崩れることはありません。
最近は腰紐の位置が高くなり、ウエストで結ぶケースが多いように思いますが、ウエストは内臓があるところ。締め付けすぎると本当に倒れてしまいますし、実際に私もこの着付け方法を知る前は、着付けの練習台になるたびに倒れていました。
本当に紐のちょっとした位置で、着付けの快適さが変わります。
そのポイントは骨格にありき、です。

参考サイト

きもの人着付け教室
http://www.kimono-bito.com/z-100717kicd/index.php

着付け着物ふわり と まとうものづくり
https://ameblo.jp/colorsofmami/entry-12013962930.html

この記事を書いた人

  • 飯田昌美-リサイズ
  • 着付け講師 飯田昌美

    多くの着付け教室を体験した後、きもの人で独自の教授法で通算20年以上着付け指導を行っている。
    人の骨格にそった着付けは、楽で美しく着ることができ丁寧な分り易い指導に定評がある。

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